ペット信託とは:費用としくみ、遺言(負担付遺贈)との違い
この記事のポイント
- ペット信託とは、飼い主が亡くなったり入院したりして犬を飼えなくなったときに備え、飼育費にあてるお金を信頼できる人(受託者)に託し、新しい飼い主に渡してもらうしくみです。
- 信託は、信託法にもとづき、契約・遺言・公正証書などで設定します。犬は法律上お金を受け取れないので、受け取る人(受益者)は世話をする人にするのが一般的です。
- 費用は、専門家の公表料金で「15万円〜」「22万円〜」などの例があり、これに公正証書の手数料や、信託監督人を置く場合の報酬が加わります。
- 遺言で世話を条件に財産を渡す「負担付遺贈」は手軽な一方、受け取る人が放棄できます。どの方法が合うかは、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家に相談してください。
ペット信託とは、自分が亡くなったり入院したりして犬を飼えなくなったときに備え、飼育費にあてるお金を信頼できる人に託し、新しい飼い主に渡してもらうしくみです。専門家に頼む場合の費用は、公表されている例で「15万円〜」「22万円〜」などで、これに公正証書の手数料などが加わります。遺言で世話を条件に財産を渡す「負担付遺贈」より準備に手間と費用がかかる一方、お金の管理や確認のしかたを細かく決められます。どの方法が合うかは事情によって違うので、最後は弁護士・司法書士・行政書士などの専門家に相談してください。
この記事は、しくみを知るための一般的な説明です。個別の契約や税金の判断は、必ず専門家に確かめてください。
ペット信託とは?しくみと登場する人
ペット信託とは、信託法の「信託」を使って、飼い主がいなくなったあとも犬の世話とお金が続くようにする方法のことです。「ペット信託」という法律上の言葉があるわけではなく、信託をペットのために使う方法をこう呼んでいます。
信託法では、信託を、契約や遺言などの方法で、ある人(受託者)が決められた目的にそって財産を管理・処分するしくみ、と定めています(第2条)。信託をする人を「委託者」、財産を管理する人を「受託者」、利益を受ける人を「受益者」と呼びます。
ペット信託では、ふつう次の人が登場します。
| 役割 | だれがなることが多いか | すること |
|---|---|---|
| 委託者 | 飼い主 | 飼育費にあてるお金を託す |
| 受託者 | 家族・親せき・信頼できる知人、法人など | 託されたお金を管理し、決めたとおりに渡す |
| 受益者 | 新しい飼い主(世話をする人・団体) | 犬を世話し、飼育費を受け取る |
| 信託監督人(置かなくてもよい) | 専門家や家族 | お金が決めたとおりに使われているかを確かめる |
出典:e-Gov法令検索「信託法」第2条・第131条、VSグループ「ペット信託とは?費用・遺言との違い・相続税の注意点を税理士が解説」(2026年10月23日に確認)
犬そのものは、法律上お金を受け取る立場になれません。そのため、受益者は世話をしてくれる人や団体にするのが一般的です。
受託者と受益者を同じ人にすると、注意が必要です。信託法は、受託者が受益権の全部を自分で持つ状態が1年続くと、信託が終わると定めています(第163条第2号)。お金を管理する人と世話をする人を分けるのは、こうした理由もあります。
また、信託を仕事として(業として)引き受けるには、信託業法で内閣総理大臣の免許が必要です(信託業法第3条)。だれに受託者を頼めるかは、専門家に確かめてください。
ペット信託はどうやって作る?3つの方法
信託法では、信託は次の3つの方法のどれかで作ります(第3条)。
| 方法 | どんなものか | 効力が生じるとき |
|---|---|---|
| 信託契約 | 飼い主と受託者が契約を結ぶ | 契約を結んだとき |
| 遺言 | 遺言の中で信託を定める | 遺言の効力が生じたとき(飼い主が亡くなったとき) |
| 自己信託 | 自分の財産を自分で管理する旨を、公正証書などの書面で示す | 公正証書の作成などのとき |
出典:e-Gov法令検索「信託法」第3条・第4条(2026年10月23日に確認)
ペット信託では、飼い主が元気なうちに受託者と契約を結ぶ「信託契約」の形がよく紹介されています。契約なら、亡くなったときだけでなく、入院や施設への入居、認知症などで飼えなくなったときから飼育費を渡す、という決め方もできます。
なお、受益者を決めずに「この犬のために」という目的だけで作る信託は、信託法で存続期間が20年までとされ(第259条)、作り方も契約か遺言に限られています(第258条)。どんな形にするのがよいかは、専門家と相談しながら決めることになります。
ペット信託の費用はいくら?
ペット信託にかかるお金は、大きく分けて「作るための費用」と「犬の飼育費として託すお金」の2つです。
作るための費用(公表されている例)
| 項目 | 公表されている金額の例 |
|---|---|
| 専門家の報酬:ペット信託 | 22万円〜(税込。HAL行政書士事務所、横浜市)/15万円〜(清澤司法書士事務所、東京都中野区) |
| 専門家の報酬:負担付遺贈・負担付贈与(参考) | 11万円〜(税込。HAL行政書士事務所) |
| 公証人の手数料(公正証書にする場合) | 目的の価額50万円以下 3,000円/50万円超〜100万円以下 5,000円/100万円超〜200万円以下 7,000円/200万円超〜500万円以下 1万3,000円/500万円超〜1,000万円以下 2万円 |
| 信託監督人の報酬(専門家に頼む場合) | 月1万〜2万円程度とする解説がある |
出典:相続支援センター横浜 by HAL行政書士事務所「ペット法務」、清澤司法書士事務所「知っておきたい『ペット信託®』とは」、日本公証人連合会「手数料」、VSグループ「ペット信託とは?費用・遺言との違い・相続税の注意点を税理士が解説」(2026年10月23日に確認)。専門家の報酬は各事務所の公表例で、内容によって変わります。
清澤司法書士事務所の「15万円〜」は、ページに税込・税抜の表示がありませんでした。頼む前に、税込の総額で見積もりをもらいましょう。
公証人の手数料は、目的の価額(託す財産の額など)で決まります。契約の内容によって計算が変わることがあるので、正確な額は公証役場や専門家に確かめてください。
犬の飼育費として託すお金
託すお金は、「1年あたりの飼育費 × これから飼う年数」を目安に考えます。年をとった犬は、通院や介護用品、老犬ホームの利用などで、若いころより費用がかさむことがあります。
- 1年あたりの飼育費:ご飯、医療費、トリミング、介護用品、ペット保険など
- これから飼う年数:犬の今の年齢と、犬の平均寿命を参考に
- 老犬ホームに預ける可能性があるなら、その費用(老犬ホームの費用と選び方)
- 新しい飼い主への謝礼を決めるなら、その額
金額が大きくなるときは、余裕を持たせておくと安心です。犬が亡くなったあとに残ったお金をだれに渡すかも、契約で決めておきます。
ペット信託と遺言(負担付遺贈)の違いは?
飼い主が亡くなったあとに備える方法は、ペット信託のほかに、遺言で行う「負担付遺贈」や、契約で行う「負担付死因贈与」があります。
- 負担付遺贈とは、遺言で「犬の世話をすること」を条件に、特定の人に財産を渡すことです。
- 負担付死因贈与とは、飼い主が亡くなったら財産を渡す、その代わりに犬の世話をしてもらう、という約束を、生前に相手と契約で結んでおくことです。
| ペット信託 | 負担付遺贈(遺言) | 負担付死因贈与(契約) | |
|---|---|---|---|
| どうやって作る | 契約・遺言など | 遺言(飼い主がひとりで作る) | 飼い主と相手の契約 |
| 相手の同意 | 契約なら受託者の同意が必要 | いらない | 必要 |
| 受け取る人が断れるか | 契約で引き受けてもらう形にできる | 亡くなったあと、いつでも放棄できる(民法第986条) | 契約なので、勝手にやめにくい |
| 生きているうちの入院・認知症への備え | 決め方によってはできる | できない(亡くなってから効力) | できない(亡くなってから効力) |
| お金の管理 | 受託者が管理し、少しずつ渡すこともできる | 受け取った人に任される | 受け取った人に任される |
| 世話がされないとき | 信託監督人などが確かめる設計ができる | 相続人が催告し、家庭裁判所に遺言の取消しを求められる(民法第1027条) | 契約の決まりによる |
| 費用の目安(専門家の公表例) | 15万〜22万円〜 | 11万円〜(遺言書作成に準じる例) | 11万円〜(贈与契約の例) |
出典:e-Gov法令検索「民法」第553条・第554条・第986条・第1002条・第1027条、「信託法」第3条・第4条・第131条、相続支援センター横浜 by HAL行政書士事務所「ペット法務」(2026年10月23日に確認)
民法では、負担付遺贈を受けた人は、受け取った財産の価額をこえない範囲で世話などの義務を負うとされています(第1002条第1項)。また、死因贈与(亡くなったら渡す約束)には、性質に反しない限り遺贈の決まりが使われます(第554条)。死因贈与は、遺言と同じように、贈る人が生きているうちなら取り消せるのが原則です。ただし最高裁判所の判決(昭和57年4月30日)では、負担付死因贈与で、受け取る側が贈る人の生前に負担の全部かそれに近い程度をすでに果たしていた場合は、特別な事情がない限り取り消せないとされています。犬の世話を先に始めてもらう形にするときは、この点も含めて専門家に確かめてください。
どの方法にも共通して大切なのは、世話を引き受けてくれる人と、前もってよく話し合っておくことです。遺言だけで決めても、相手が引き受けられない事情があれば、犬の行き先が決まらないことがあります。
ペット信託のメリットと注意点
メリット
- 自分が亡くなったあとも、飼育費が決めたとおりに使われやすくなる
- お金を管理する人と世話をする人を分けられる
- 信託監督人を置いて、お金の使い方を確かめてもらえる
- 契約の決め方によっては、入院や認知症など、生きているうちの「もしも」にも備えられる
- 犬が亡くなったあとに残ったお金の行き先を決めておける
注意点
- 遺言だけの方法より、準備の手間と費用がかかる
- 受託者・受益者・信託監督人など、引き受けてくれる人を見つける必要がある
- 信託監督人を専門家に頼むと、毎月の報酬がかかることがある
- だれが受け取るかによって、贈与税や相続税がかかる場合がある(税理士に確認を)
- 受託者になれる人には、信託業法などの決まりがある
「ペット信託」という名前で商品やサービスを案内しているところもあります。契約する前に、だれが受託者になるのか、費用の内訳、途中でやめたいときの扱いを、書面で確かめてください。
ペット信託を考えはじめたら、まずすること
ペット信託は、すぐに決めなくても大丈夫です。まずは、次のことから始めてみてください。
- 世話を頼みたい人や場所を考える:家族・知人のほか、老犬ホームも選択肢になります。第2候補も考えておくと安心です。
- その人と話してみる:引き受けられるか、どんな条件ならできるかを聞きます。
- 1年の飼育費を書き出す:ご飯・医療費・介護用品など。
- 犬のことをメモに残す:性格、好きなもの、持病、かかりつけの動物病院。
- 専門家に相談する:ペット信託や遺言を扱う弁護士・司法書士・行政書士に、どの方法が合うかを相談します。税金は税理士に確かめましょう。
自分が入院したときなど、短い期間の預け先はペットシッターの料金と選び方も参考にしてください。犬の医療費への備えはシニア犬のペット保険にまとめています。
よくある質問
ペット信託の費用は、いくらかかりますか?
専門家に頼む場合、公表されている例では、ペット信託の報酬が「15万円〜」「22万円〜(税込)」などでした。これに、公正証書にする場合は公証人の手数料(目的の価額が50万円超〜100万円以下なら5,000円など)がかかります。別に、犬の飼育費として託すお金そのものが必要です。
犬に財産を相続させることはできますか?
できません。日本の法律では、犬は財産を受け取る立場になれないとされています。そのため、世話をしてくれる人にお金を託す「ペット信託」や、世話を条件に財産を渡す「負担付遺贈」「負担付死因贈与」といった方法が使われます。
ペット信託と負担付遺贈は、何が違いますか?
負担付遺贈は遺言で行い、受け取る人は飼い主が亡くなったあとに放棄できます(民法第986条)。ペット信託は、お金を管理する人と世話をする人を分けたり、信託監督人にお金の使い方を確かめてもらったりする設計ができます。また、飼い主が生きているうちの入院や認知症に備えることもできます。
ペット信託は、だれに相談すればいいですか?
ペット信託や遺言を扱っている弁護士・司法書士・行政書士に相談するのが一般的です。税金がかかるかどうかは税理士に確かめましょう。まずは、預かってくれる家族や知人、老犬ホームなどの候補を考えておくと、相談が進めやすくなります。
ペット信託を専門家に相談する前に整理することリスト
印刷して、終わったものに印をつけて使えます。
- 犬の年齢・体重・持病と、かかりつけの動物病院
- 1年あたりの飼育費(ご飯、医療費、トリミング、介護用品など)
- 自分が飼えなくなったときに、世話を頼みたい人・施設の候補(第2候補も)
- お金を管理してもらう人(受託者)の候補
- 託すお金の額と、どこから出すか(預金、保険金など)
- 犬が亡くなったあと、残ったお金をだれに渡すか
- 生きているうちの入院・認知症にも備えたいか
- 犬の性格・好きなもの・苦手なことのメモ(新しい飼い主に渡す)
いぬのながいき手帖 https://inu-nagaiki.com/articles/pet-shintaku/
参考にした情報
- 弁護士法人みずほ中央法律事務所「死因贈与の特徴(遺言との違い・仮登記できる・自由に撤回できる)」
- e-Gov法令検索「信託法」第2条・第3条・第4条・第131条・第163条・第258条・第259条
- e-Gov法令検索「民法」第553条・第554条・第986条・第1002条・第1027条
- e-Gov法令検索「信託業法」第3条
- 日本公証人連合会「手数料」
- 相続支援センター横浜 by HAL行政書士事務所「ペット法務」
- 清澤司法書士事務所「知っておきたい『ペット信託®』とは」
- VSグループ「ペット信託とは?費用・遺言との違い・相続税の注意点を税理士が解説」
制度や料金は変わることがあります。最新の情報は、各機関・施設の公式サイトや窓口でご確認ください。
この記事の更新履歴
- 公開しました。
- 出典と数字を確認し、確認できなかった点の書き方を直しました。
- 下書きを作成しました。
次に内容を見直す予定:2027年4月ごろ
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この記事を書いた人
老犬の介護・預け先・お別れについて、環境省・厚生労働省・自治体などの公的な情報と、獣医師の監修をもとに記事を作成しています。受診の目安など体に関わる内容は、獣医師の確認を経たものだけを公開します。