犬の皮膚病には様々なものがありますが、中でも多いのがアトピー性皮膚炎です。
特に柴犬はアトピーになりやすい犬種と言われています。
アトピー性皮膚炎は、ハウスダストやカビなどに対し体が過敏に免疫反応を示し、かゆみを起こします。
遺伝子が関わっているので、若い年齢で発症し長期間に渡って付き合っていく病気です。
犬がアレルギーになると飼い主さんは「食べ物が原因なのでは?」と考えるのではないでしょうか。
確かに食べ物がアレルギーに関係している場合は、ドッグフードを変えることで症状が良くなることがあります。
ですが実際にはどれだけ食べ物を注意しても改善しないケースが多いのです。
特にアトピー性皮膚炎はハウスダストやカビ、ダニの死骸など、普通どこにでもある物質が原因になっています。
例えば鶏肉や小麦が原因なら、それを含まないドッグフードにすればいいのですが、ハウスダストやカビは無菌室のようなところに入らない限り避けることが出来ません。
そんなことは現実的に無理ですよね。
ではどうしたらアトピーを改善できるのでしょうか?
アトピーには食物アレルギーも関連していますので、アレルギーに良いドッグフードを探すことも大切です。
ですが、食べ物だけでパッと良くなる病気ではありません。
まずは大まかでいいので、アトピーという病気を知り、愛犬にできる対策を総合的に考えていきましょう。
出来れば順番に読んで頂きたいですが、気になった所だけ見たい方は目次から選んでください。
目次
犬のアトピーは治せるのか?
みなさんはアトピーという病気にどんなイメージをお持ちでしょうか?
もしかしたら「原因不明のわからない、治しようのない皮膚病」と思っているかもしれません。
アトピーの語源になっているギリシャ語のatoposは「奇妙でよくわからない」という意味です。
この名前が表しているように、ひと昔前までは何をすれば良くなって、何をすれば悪くなるのか見当がつかないものでした。
それでも現在では、多くの研究と経験が積み重ねられ、「奇妙でよくわからない」病気ではなくなりました。
じっくりと原因を突き止めて、それを改善することが出来れば、完治は無理としても、日常に支障のないところまで治せるのです。
ではアトピーの原因とは一体何でしょうか?
アトピーの原因は?
アトピー性皮膚炎は遺伝的素因があるといわれています。
・アレルギー体質であること
・皮膚のバリアが弱いこと
・アレルギー原因物質(アレルゲン)があること
この3つが重なった時に、はじめてアトピーが起きます。
つまり、皮膚のバリアがしっかりしていれば、アレルギー体質であろうが、アレルギー原因物質がたくさんあろうがアトピーにはなりません。
逆に、皮膚のバリアが弱っていても、アレルギーを起こす物質がなかったり、アレルギー体質でければアトピーにならないのです。
ところで、「アトピー」と「アレルギー」がごちゃ混ぜになっている方も多いのではないでしょうか?
かなりざっくり分けると、アレルギーは免疫が本来反応しなくてもいい身体の外の物質に過剰に反応することです。
金属アレルギーや肉アレルギーなどですね。
一方アトピーは、その中でもハウスダストやダニの死骸、カビなどの身の回りにいくらでもある物質に反応する狭い意味でのアレルギーです。
例えば金属アレルギーなら、腕時計をやめたり、アクセサリーをつけなければそれで済みますが、ハウスダストやカビはいくら空気洗浄機を付けたとしても完全に避けることができません。
このように、アトピーは原因物質を簡単に避けることができないため治療が難しいのです。
原因物質(アレルゲン)から逃げられないなら、アトピーの治療や対策はどのように考えたらいいのでしょうか?
アトピーの治療や対策の考え方
原因のところでお話した通りアトピーは、
・アレルギー体質であること
・皮膚のバリアが弱いこと
・アレルギー原因物質(アレルゲン)があること
の3つの条件がそろった時に起きてしまいます。
ということは、この3つに対しての治療対策を総合的に行う必要があります。
1.アレルギー体質を改善させる
アレルギーは「身体の免疫システムが誤って暴走すること」です。
免疫は動物の身体にもともとそなわっているもので、外敵を撃退する仕組みです。
この免疫システムが上手く働かず、どこにでもあるハウスダストやカビに過剰に反応してしまうのがアレルギー体質ということになります。
最近の研究では、免疫システムを正常に働かせるためには腸や皮膚に存在するT細胞と抑制T細胞や善玉菌と悪玉菌のバランスが重要なのがわかってきています。
生まれ持った体質を短期間で変えるのは難しいですが、適度な食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖などを食事で取り入れることで、少しずつ腸内環境を整えていくことが大切です。
2.皮膚のバリア機能を回復させる
皮膚のバリア機能はとても重要です。
皮膚のバリア機能(防御力)が弱くなると、皮膚表面からアレルゲンが入り込みやすくなります。
体内に入ったアレルゲンが、アレルギー反応を起こし、アトピー性皮膚炎を発症します。
ですので、バリア機能を回復させれば、アレルゲンの侵入を防ぎ、症状を抑えることができるのです。
よく、皮膚を清潔にしようと、犬のシャンプーをやりすぎる方がいます。
犬の皮膚を洗い過ぎると皮膚を傷つけたり、皮膚が乾燥しやすくなり、かえってバリア機能を低下させてしまします。
また、皮膚には常在菌というものがいます。
常在菌には善玉菌、悪玉菌、日和見菌があり、バランスをとって存在しています。
皮膚のバリア機能にはこの常在菌がとても大切なので、悪玉菌を無くしてしまおうと、一生懸命犬の身体をきれいに洗うのは逆効果になってしまいます。
では「具体的に週に何回洗えばいいのか?」と疑問に思われるかもしれませんが、症状と使うシャンプーの種類によって、シャンプーの頻度は異なります。
担当の獣医師と相談しながら決めていくようにしてください。
また、使用するシャンプーですが、犬の皮膚に常在しているマラセチアという真菌を駆除する皮膚疾患治療用のマセラブシャンプーというものがあります。
→マラセブシャンプー(Malaseb Medicated Shampoo)
抵抗力が落ちているワンちゃんは、マラセチア真菌が異常繁殖し、強い痒みや皮膚の赤化、皮膚の黒ずみなどの症状が出てきます。
マセラブシャンプーの有効成分「ミコナゾール硝酸塩」と「クロルヘキシジングルコン酸塩」でマラセチア真菌を駆除できます。
次に皮膚のバリア機能を向上させる食べ物についてですが、魚や亜麻仁油に多く含まれるオメガ3脂肪酸が効果的と言われています。
オメガ3脂肪酸(DHA、EPA)は、犬の身体の中では作ることができない必須脂肪酸で、食べ物からとるしかありません。
オメガ3脂肪酸には、皮膚の炎症を抑えたり、傷ついた皮膚を修復する働きがありますので、積極的に取り入れたい栄養です。
ドッグフードにもオメガ3脂肪酸がたくさん入っているものがありますが、酸化していると効果がないので出来れば新鮮な魚を与えるのが良いです。
つまり、生のアジやイワシ、鮭、サーモンです。
低温で茹でてもOKですが、茹で汁も与えてください。
そうは言っても毎日忙しいのに、魚を調理して与えるのはかなり負担です。
そんな時はサプリメントを効果的に使いましょう。
グリズリーのサーモンオイルオメガ3は、アラスカの高品質なサーモン由来でワンちゃんの身体に優しいオイルです。
3.アレルギー原因物質(アレルゲン)を減らす
はじめの方で、「アトピーの原因になるハウスダストやカビは無菌室のようなところに入らない限り避けることが出来ません。」と言いましたが、完全になくすことは無理だとしても、減らす努力は必要です。
犬のアレルゲンには次のようなものがあります。
・ハウスダスト
・ダニの死骸
・カビ
・動物のフケ、抜け毛
・昆虫の死骸
・花粉
…など
これらのものは空気中にも舞っているので、完全になくすことは不可能です。
ですが、ここで重要なのは犬の身体の表面につくアレルゲンを減らすことです。
例えばヨーロッパでは、子供のピーナッツアレルギーが増加している原因を調べたところ、アレルギーの子供たちの多くが赤ちゃんの頃にピーナッツオイルを保湿剤として使っていたことがわかりました。
皮膚を通してピーナッツがアレルギーの原因物質になってしまっていたのです。
特にアトピーでは皮膚のバリアー機能が低下していますので、アレルゲンが直接肌に触れない対策をしなければなりません。
「シャンプーのやりすぎは逆効果」と書きましたが、マメなブラッシングや適度な回数のシャンプーで、犬の表面についたアレルゲンを減らすことはともて大切です。
また、室内飼いでは頻繁に空気を入れ替えたり、空気清浄機を使うことも効果的です。
柴犬のアトピーに効くドッグフードは?
アトピーに直接効果があるドッグフードというものはありません。
ですが食物アレルギーがある場合は、原因になっている食材が入っていないものを選ぶ必要があります。
アレルゲンを特定するには、原材料がなるべくシンプルで、チキンならチキンだけ、ラム肉ならラム肉だけといったように、単一のたんぱく質のものを試してください。
腸内環境を整える、食物繊維(特にさつまいも、テンサイ、リンゴなど)や乳酸菌(善玉菌)、オリゴ糖(善玉菌のエサ)が配合されているかも合わせてチェックしましょう。
当然ですが添加物・保存料・着色料が入ったものは避けて、無添加のものを選んでください。
アトピーに効くサプリメントは?
医学的に皮膚炎に効果のあるものは、脂肪酸製剤だけです。
つまり、先ほどもご紹介したオメガ3脂肪酸ということになります。
ただし、一口にオメガ3のサプリと言ってもメーカーによって配合量や品質が全く違います。
また、サプリは一度にたくさん摂れば効果がアップするものではありません。
ですのであくまでも補助的なものと考えてください。
なるべく鮮度の良いアジ、イワシ、鮭、サーモンなど与えるようにして、それが無理な時はサプリで補うイメージです。
アトピーにストレスは大敵
ストレスは犬の腸の働きを悪くさせます。腸の機能が低下すれば、免疫システムが上手く作用しなくなり、アレルギーの悪化につながってしまいます。
また、腸が弱ると皮膚のバリア機能にも影響を与えてしまうのです。
犬のストレスをなるべくため込まず、たまったストレスは発散させてあげましょう。
日頃の散歩だけでなく、街中に充満している排気ガスや粉塵のない、自然が豊かな場所で思い切り遊ばせてあげるのがおすすめです。
愛犬の治療で疲れている飼い主さんのストレスも一緒に発散できますよ。
小さなことをコツコツ積み重ねるのが大切
アトピーに限らず、愛犬の病気を治したいと思っている飼い主さんはすぐに効果が出るものを期待してしまいます。
ですが、実際には小さなコツコツ続けていたワンちゃんほど改善していくものです。
「アトピーにはこのハーブが効く」「このサプリで治った」などの情報にまどわされず、基本的な対策を地道に行っていくことが、結果的に良い方向に向かう近道になるはずです。
愛犬の症状は心配ですが、飼い主さんが神経質になり過ぎれば犬にもストレスが伝わります。
アトピーの治療は精神的にも負担が大きいですが、心に余裕を持って、愛犬と一緒に過ごせる貴重な時間を楽しむことに目を向けるのも大切ではないでしょうか。