犬の認知症(認知機能不全症候群)とは?気づくサインと、家での過ごし方
この記事の監修:獣医師 氏名非公開
体に関わる記事(受診の目安・家でのケアなど)は、獣医師が内容を確認しています。氏名は公開していません。
この記事のポイント
- 犬の認知症(認知機能不全症候群)とは、年をとるにつれて脳の働きが変化し、迷う・夜に眠らない・トイレの失敗が増えるといった行動の変化が出てくる状態のことです。
- サインは、獣医師の間では「DISHAA」という6つの分け方で整理されています。
- 同じような変化は、痛みや目・耳の衰え、ほかの病気でも起こります。気づいたら記録して、まず動物病院で体の不調がないかを見てもらいましょう。
- 家では、生活のリズムを整える、ぶつかっても安全な環境にする、夜の分担を決めるなど、愛犬と家族の両方が楽になる工夫ができます。
犬の認知症(認知機能不全症候群)は、年をとるにつれて、家の中で迷う、夜に眠らず歩き回る、トイレの失敗が増えるといった行動の変化が少しずつ出てくる状態です。ただし、同じような変化は、痛みや目・耳の衰え、ほかの病気でも起こります。気になる変化に気づいたら、いつから・どんなときかを記録して、まず動物病院で体の不調がないかを見てもらいましょう。家では、生活のリズムや部屋の環境を整えることで、愛犬も家族も少し楽に過ごせることがあります。
犬の認知症とは、年齢とともに脳の働きが変化し、記憶や学習、まわりの把握、睡眠のリズムなどに影響が出て、行動が変わってくる状態のことです。獣医学では「認知機能不全症候群(CDS/CCDS)」と呼ばれます。
犬の認知症の症状は?気づくサインのチェック
認知症で見られることのある行動の変化は、獣医師の間では「DISHAA(ディシャー)」という6つの分け方で整理されています。米国の獣医行動学の専門医が作った評価表では、次のような例が挙げられています。
| 分け方 | 見られることのある変化の例 |
|---|---|
| D:見当識(どこにいるかわからない) | 物の間にはさまる・角から出られない、ぼんやり一点を見つめる、知っている人や動物がわからない、家や庭で迷う |
| I:人や動物との関わり | 怒りっぽくなる・怖がる、あいさつやなでられることへの関心が減る |
| S:睡眠と目覚めのリズム | 夜に落ち着かず歩き回る、眠る時間が減る、夜中に起きる、夜に鳴く |
| H:トイレのしつけ・学習と記憶 | 家の中でおしっこ・うんちをする、外に出たい合図が減る、覚えていた合図に反応しにくい、気が散りやすい |
| A:活動 | 探索や遊びが減る、または目的なく歩き回る・同じ場所をぐるぐる回るなどが増える |
| A:不安 | ひとりになると不安がる、音や見えるものを怖がる、新しい場所や外に出るのを怖がる |
出典:Morris Animal Foundation「DISHAA Assessment Tool」(Gary Landsberg 作成)(2026年10月23日に確認)
当てはまるものがあっても、それだけで認知症と決めることはできません。表は、変化に気づいて記録するための目安として使ってください。記事の最後に、病院に持っていけるメモを用意しています。
こんなときは、早めに動物病院に電話してください
- 変化が数日のうちに急に出てきた
- ふらつく、首がかたむく、けいれんがある
- 食べない、水を飲まない、ぐったりしている
- 痛がる様子がある、触ると嫌がる
年齢とともにゆっくり進む変化に比べ、急に出てきた変化は、ほかの病気のサインのこともあります。夜間や休日で迷うときは、すぐ病院か確かめるも参考にしてください。
犬の認知症は何歳ごろから?なりやすさは?
2025年12月に米国獣医師会の学術誌(JAVMA)で発表された、犬の認知機能不全症候群の診断と経過観察のガイドラインでは、次のようにすすめられています。
- 7歳ごろから、定期的なシニア犬向けの問診で、行動の変化を確かめはじめる
- 10歳からは、すべての犬で、認知機能を評価する表を使った確認を半年ごとに行う
- 飼い主が行動の変化に気づいた場合は、評価表で詳しく確かめ、半年ごとに経過を見る
出典:Olby NJ, et al.「The CCDS Working Group Guidelines for Diagnosis and Monitoring of Canine Cognitive Dysfunction Syndrome」JAVMA(2025年)、ノースカロライナ州立大学の発表(2026年10月23日に確認)
また、米国で約1万5,000頭の犬を対象にした研究(Dog Aging Project)では、ほかの条件をそろえて比べると、年齢が1歳上がるごとに、認知機能不全と判定される可能性(オッズ)が52%高くなっていたと報告されています。同じ研究では、ほとんど運動しない犬は、とてもよく動く犬に比べて判定されたオッズが高かったことも報告されていますが、これは関連を見たもので、運動で認知症を防げるという意味ではありません。
出典:Yarborough S, et al.「Evaluation of cognitive function in the Dog Aging Project」Scientific Reports(2022年)(2026年10月23日に確認)
年をとるほど起こりやすくなる変化なので、「うちの子に限って」と思わず、気になることを書きとめておくことが早く気づくことにつながります。犬の年齢を人の年齢に置きかえて知りたいときは、犬の年齢換算を使ってみてください。
認知症と、ほかの病気はどう見分ける?
認知症で見られる変化は、ほかの病気でも起こります。米国の動物愛護団体ASPCAは、関節炎、歯の病気、甲状腺の病気、がん、目や耳の衰え、泌尿器の病気、クッシング症候群などでも、似た行動の変化が起こりうるとして、まず動物病院で体の原因がないか確かめることをすすめています。
日本でも、夜の行動(歩き回る・鳴く)を理由に行動診療科を受診した高齢犬24頭を振り返った報告があります。この報告では、認知機能不全症候群と診断されたのは約5割で、8割以上で体の病気が見つかったとされ、ほかの病気との見分けがきわめて大切だとまとめられています。
出典:ASPCA「Behavior Problems in Older Dogs」、小澤真希ほか「夜間行動を主訴に行動診療科を受診した高齢犬24頭の後ろ向き調査」日本獣医師会雑誌(2022年)(2026年10月23日に確認)
つまり、「年だから認知症だろう」と決めてしまうと、治療できる体の不調を見逃すことがあります。変化に気づいたら、まず病院で相談することが、愛犬の暮らしを守ることにつながります。
病院では、どんな流れで調べる?
先ほどのガイドラインでは、行動の変化が見られた犬について、体の診察と神経の診察でほかの病気がないかを確かめ、できれば脳の画像検査(MRIなど)も行うとしています。そのうえで、認知症の程度を「軽い・中くらい・重い」の3段階で整理し、経過を見ていくことがすすめられています。
実際にどんな検査をするかは、愛犬の年齢や体の状態、家族の希望によって、かかりつけの獣医師と相談して決めます。
受診のときは、次のものを持っていくと、様子が伝わりやすくなります。
- DISHAAの表で当てはまった変化のメモ(いつごろから、どのくらいの頻度か)
- 夜の様子の記録(何時ごろ起きる・鳴く・歩き回るか)
- 気になる行動の動画(ぐるぐる回る、角にはまる、夜に鳴く など)
- 食欲、水を飲む量、歩き方、目や耳の様子の変化
- 持病と、ふだん飲んでいる薬やサプリ
治療はどうする?
認知症の犬には、薬、サプリや食事(フード)、家の環境の工夫、行動面のはたらきかけを組み合わせることが検討されます。ASPCAは、薬による治療と、その犬の困りごとに合わせた行動面のはたらきかけを組み合わせること、家の環境を整えること、散歩や好きな遊び、知育おもちゃなどで毎日に刺激を作ることを挙げています。どれを取り入れるかは、認知症の程度や体の状態、家族の暮らしに合わせて、かかりつけの獣医師と相談して決めます。始めたあとは、気になる行動の変化を記録して受診のときに伝えると、続けるか見直すかを相談しやすくなります。
薬やサプリ、フードについては、このページでは効果をお伝えしていません。使うかどうか、どう選ぶかは、かかりつけの獣医師に相談してください。
認知症の犬が夜寝ないときは?
夜に眠らず歩き回る、鳴き続けるといった変化は、家族の睡眠にも大きく関わります。理由が一つではないので、まずは記録をつけて病院で相談しましょう。夜泣きが続くときの記録のつけ方や、家族が眠れないときの分担は、老犬の夜泣きが続くときにくわしくまとめています。
夜に向けて、暮らしの中で試せること
- 朝は日の光が入る部屋で過ごし、昼のうちに短い散歩や外の空気にふれる時間を作る
- 寝る前にトイレと水をすませる
- 寝床を、家族の気配がわかる場所に移す
- 夜は部屋を暗くしすぎず、足元が見える程度の明かりを残す
- 寝床の暑さ・寒さを見直す
家での過ごし方は?
認知症のサインが見られるようになっても、暮らしの工夫で、愛犬が安心して過ごせる時間を増やすことができます。
家でできること
- 家具の配置をなるべく変えず、通り道に物を置かない
- 家具の角やすき間をやわらかいもので覆い、はさまりやすい場所をふさぐ
- ぐるぐる回ったり歩き回ったりする犬は、円形のサークルの中で安全に歩けるようにする
- すべりにくいマットを敷いて、転びにくくする
- ご飯・散歩・寝る時間を、毎日なるべく同じにする
- 名前を呼んでからそっと触れるなど、驚かせない接し方をする
- においをかがせる遊びや、短い時間のやさしい声かけなど、無理のない刺激を続ける
- トイレの失敗が増えたら、トイレの場所を増やしたり、おむつやシーツを使ったりする
サークルやマット、おむつなどの選び方は、老犬の介護用品の選び方にまとめています。
トイレの失敗や夜鳴きは、愛犬がわざとしているわけではありません。叱るより、失敗しても困らない環境を作るほうが、愛犬も家族も楽になります。
認知症が進んだら?末期の症状と、これからのこと
「末期症状」「余命」「寿命」と調べて、不安な気持ちでいる方もいると思います。認知症の進み方や、そのあとの時間は、一頭一頭大きく違います。体のほかの病気や年齢、食欲なども関わるため、このページでは決まった経過や期間の数字は載せていません。
認知症が進むと、上の表(DISHAA)にある変化が増えたり、目立つようになったりすることがあります。たとえば、夜に歩き回る・鳴く時間が長くなる、家族への反応が少なくなる、トイレの失敗が増える、といった変化です。年齢による足腰の衰えやほかの病気も重なって、歩く・食べる・トイレに行くことに手助けが必要になる犬もいます。どんな変化がいつ起こるかは犬によって違うので、気づいたことをメモしておき、受診のときに伝えてください。
これからのことが気になるときは、かかりつけの獣医師に、次のようなことを聞いてみてください。
- 今の程度(軽い・中くらい・重い)と、前回からの変化
- これから考えられる変化と、そのときの選択肢
- 家族として、今できること
介護が長くなると、家族の負担も大きくなります。夜の当番を分ける、数日だけ預けるなど、休む方法も考えておきましょう。老犬ホームの費用と選び方や老犬の介護に疲れたときも参考にしてください。今の愛犬の状態と、これからの準備を整理するには、介護ステージチェックが使えます。
よくある質問
犬の認知症は何歳ごろから始まりますか?
はっきりした年齢は決まっていません。2025年に獣医学の専門誌で発表された診断と経過観察のガイドラインでは、7歳ごろから定期的に行動の変化を確かめ、10歳からは半年ごとに評価することがすすめられています。気になる変化があれば、年齢にかかわらず相談してください。
認知症かどうか、家でチェックできますか?
このページの「DISHAA」の表で、当てはまる変化を書き出すことはできます。ただ、同じような変化はほかの病気でも起こるため、チェックの結果だけで認知症と決めることはできません。書き出したメモを持って、動物病院で相談してください。
老犬が夜寝ないで歩き回ります。認知症でしょうか?
夜に眠らない・歩き回るのは認知症で見られることのあるサインですが、痛み・かゆみ・トイレの回数が増える病気など、体の不調が理由のこともあります。日本で夜の行動を理由に受診した高齢犬24頭を調べた報告では、8割以上で体の病気が見つかっています。まず動物病院で相談しましょう。
犬の認知症の末期には、どんな症状がありますか?余命は?
進み方や、そのあとの時間は一頭一頭違うため、このページでは決まった経過や期間の数字はお伝えしていません。これからのことが気になるときは、かかりつけの獣医師に、今の状態とこれから考えられる変化を聞いてみてください。
認知症に効く薬やサプリはありますか?
このページでは、薬やサプリの効果はお伝えしていません。使う前に、かかりつけの獣医師に相談してください。
認知症が気になるとき、病院に持っていくメモ
印刷して、終わったものに印をつけて使えます。
- 変化に気づいた時期と、最近増えてきたかどうか
- 家の中で迷う、角にはまって出られない、ぼんやり一点を見つめることがあるか
- 家族やほかの犬への反応が変わったか(呼んでも来ない、触られるのを嫌がる など)
- 夜に起きている時間、鳴く時間、歩き回る時間(何時ごろ・どのくらいか)
- トイレの失敗が増えたか、教えたことを忘れているようか
- 同じ場所をぐるぐる回る、目的なく歩き回ることがあるか
- ひとりになると不安がる、音や新しい場所を怖がるようになったか
- 食欲・水を飲む量・歩き方・目や耳の様子の変化
- 持病と、ふだん飲んでいる薬やサプリ
- 気になる行動の動画
いぬのながいき手帖 https://inu-nagaiki.com/articles/inu-ninchisho/
参考にした情報
- Olby NJ, et al.「The CCDS Working Group Guidelines for Diagnosis and Monitoring of Canine Cognitive Dysfunction Syndrome」Journal of the American Veterinary Medical Association(2025年12月24日オンライン公開)DOI: 10.2460/javma.25.10.0668
- Morris Animal Foundation「DISHAA Assessment Tool」(Gary Landsberg 作成)
- Yarborough S, et al.「Evaluation of cognitive function in the Dog Aging Project: associations with baseline canine characteristics」Scientific Reports 12(2022)DOI: 10.1038/s41598-022-15837-9
- 小澤真希ほか「夜間行動を主訴に行動診療科を受診した高齢犬24頭の後ろ向き調査」日本獣医師会雑誌 75巻(2022)
- ASPCA「Behavior Problems in Older Dogs」
制度や料金は変わることがあります。最新の情報は、各機関・施設の公式サイトや窓口でご確認ください。
この記事の更新履歴
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この記事を書いた人
老犬の介護・預け先・お別れについて、環境省・厚生労働省・自治体などの公的な情報と、獣医師の監修をもとに記事を作成しています。受診の目安など体に関わる内容は、獣医師の確認を経たものだけを公開します。